〔プロフィール〕
信州出身。雑誌編集者の傍ら写真スタジオで撮影技術を学び独立、フリーランスのフォトグラファーとして活動中。文筆、編集も手掛ける。得意分野はイベント撮影とポートレート。セールスポイントはフットワークの良さと「押し」に弱いところ。
〔展示〕
2022年4月22日(金)~27日(水)
12:00~20:00(水曜日~17:00) ※木曜日休廊
「夢にまみれた熱帯街〜銀塩カメラで撮る歌舞伎町百景〜」
今井秀実
スペースS
〔概要〕
かれこれ東京に出て40年以上が過ぎた。
故郷の信州岡谷から、特急あずさに乗ると終点新宿ということで、自分にとって東京といえば新宿なのだ。
新宿の中でも歌舞伎町は、どこよりも都会を体感させてくれる街。
当時印象に残っているのは、歌舞伎町交番の斜め向かいにあったATM。
ぼったくりバーの従業員連れられた客が現金を降ろしていた光景は、二十歳そこそこの自分にはかなりのインパクトだった。
新宿コマとミラノ座に囲まれた広場にあった噴水も懐かしい。
酔っ払いが普通に飛び込み、当然の事故も起きたりして、いつの間にか撤去されて、味気ない広場になった。新宿ゴールデン街に興味を持って、2万円を握りしめて初めて入った「L」には、現在も通っている。
歌舞伎町から、今の時代を垣間見られる。
ホストクラブがやたら元気だ。
街中のあちこちに派手な看板が貼りめぐらされ、広告のトラックがグルグルと走り回っている。
日本の経済衰退の中、密かに蔓延化している貧困化女子。
もはやナイトワークは、にわか富裕層を作り出すものではなく、ライフラインになりつつある。
ホストは心に傷を持つ女性達のカウンセラーの役割を果たしている現実がある。
ホストは悪い奴、風俗嬢はかわいそうなどと、短絡的な建前やキレイ事を叫んでも、何も解決はできない。
広場に集まるトー横キッズと呼ばれる若者達。
貧困、DV、家庭崩壊。
いっときの心の安らぎを求めて、彼ら彼女らはここにいる。これも令和の新しい歌舞伎町の顔。
みんな夢を見ている。
数年前、信州で麻雀生活している友人が、「歌舞伎町で勝負してみたい」と意気揚々に上京したが、めった打ちにあい、「やっぱメジャーは違うわ」と、肩を落として帰って行った。
騙し騙され、奪い奪われる超リアルのサバイバルゲーム。「おとなの夢の国」は、夢にうなされた輩たちの戦場である。
カメラマンとしては、2010年前後、ナイトワーク系情報誌の仕事に携わっていた時期がある。
そんな縁で歌舞伎町を銀塩カメラで撮ってみることにした。
写真展をやると決めたのはいいが、モチベーションがイマイチ上がらず、平凡な風景写真になってしまった感は、否めないが、とりあえず〆切が作品を作り上げてくれた。
自分は、いわゆる歌舞伎町の裏とか闇とかには関わっていないので、そういう写真を期待する向きにはガッカリと思うが、歌舞伎町の歴史の中で話題の場所は押さえてある。
想像力を働かせて写真を眺めると、それなりに楽しめるでは、と思う。
暗室作業を経た銀塩モノクロ写真は昭和の色と質感ではあるが、その表現力や味わいは唯一無二。
令和であっても立派に通用するものであると思う。