2025/02/14-19

影の分際

〔影の分際〕
2025年2月14日(金)~19日(水)
12:00~20:00(水曜日~17:00) ※木曜日休廊
「影の分際」
河口梨奈、藤本哲明、村津蘭
入場無料
スペースO

〔概要〕
 この展示は、写真家の河口梨奈、詩人の藤本哲明、文化人類学・映像人類学者の村津蘭の三人で作ったものである。目の前にあるものにひたすら目を凝らし、世界の饒舌さを写真で切り取ろうとする河口と、詩が内包する抒情の在り処にノーガードで身を開こうとする藤本、西アフリカの霊的存在が照射する可能性について思考する村津。
 表現媒体も志向もバラバラな三人が、いかにして一つの展示を作り得るのか。嚙み合わなさをほぐしていく、時には武骨なままぶつけ合う、それによってお互いの手つきが少し変化する、その過程がすでに展示をつくる目的でもあった。

 二〇二四年三月、Zoomの画面を介して、ベナンにいる村津の記録した「霊の視点からの映像」を、河口と藤本は見る。ウェアラブルカメラで撮影された村の風景。
「少し不穏な感じ、歩く道は手前が暗く、空に抜けているけど、抜けすぎていない感じがあるね」
 二〇二四年五月、河口による明石での撮影。藤本、村津は多少手伝いながら、ぼんやり眺める。いつもより、手前の影の気配を意識しながら、奥にある光を撮る。上から撮るのではなく、多少抜いて光に寄せる。
 二〇二四年五月、藤本がこの時の会話と写真をもとにして、新たな詩「手前が暗い」を書く。
(どうしたって手前が暗い、そういった類の写真ばかり手元に大切に残ってあって)
 だから、出発しよう、
 というのも僕ら、出発してよい、であるから!

 何度も会い、手を動かし、書き、語る。こうしたことを繰り返しながら、わたしたちは展示を少しずつ形づくっていった。その作業にいつも纏わりついているのが、影の存在だった。
「ベナンで話されるフォン語では、影と霊という言葉は同じなんだ
 と村津が言う。岡山の郊外の河原で、河口が撮影するのを、またぼんやり見ている時だった。霊が立ちあがる、その契機について村津は話し続ける。カメラに映っているのは、繁茂する植物の影にのびるつる植物の、獰猛なまでの絡まり合いの、影と気配。

 都市化で街に光が溢れ、影が追いやられていったのなんて、ずっと前のことなのに、それでも足りないかのように、生活に光は浸食しつづける。デジタルサイネージが、あるいはデジタルカメラ、スマートフォンの画面の明るすぎる光が、街にも、個人のスペースにも広がり、その流れは不可逆的なようにも思える。
 いつの間に、影のない光がこんなに氾濫したのだろうか。
 わたしたちはまるで騙されたような気持ちで、追いやられた影に目を凝らす。そうすると、影は影の分際で、けれども確かな存在感で、沈黙を、貫いている。

〔ギャラリートーク)
14日(金)17時30分〈ゲスト〉キタムラアラタ(演出家・パフォーマンスアーティスト)
15日(土)17時30分〈ゲスト〉菊井崇史(詩人)
16日(日)14時00分〈ゲスト〉松井至(映像作家)
18日(火)17時30分〈ゲスト〉西村知巳(アーティスト)

●ゲストプロフィール
〈キタムラアラタ〉
1971年生まれ。演出家、パフォーマンスアーティスト。1995年にアンネフォール創設。2000年、文化庁在外芸術家派遣員としてプラハ国民劇場(~2002)。近作は、2023年「Fish Eat」(プラハ)、2024年「CHICO Project」(東京)、「WIG」(東京)など。

〈菊井崇史〉
1983年、大阪生まれ。2012年、詩集『遙かなる光郷ヘノ黙示』(私家版)を制作。2018年、書肆 子午線より同書の復刊とともに詩集『ゆきはての月日をわかつ伝書臨』を刊行。

〈松井至〉
1984年生まれ。人と世界と映像の関係を模索している。2022年『私だけ聴こえる』を全国公開。

〈西村知巳〉
1978年山口県生まれ。写真に文章を付ける作風で作家活動を続けている。2013年以降は、高知と東京にそれぞれ拠点を置いている。2024 年11 月の時点で最後の個展「 去来」 2022年 路地と人(東京)。 

●主催:東京外国語大学フィールドサイエンスコモンズ

Date
  • 2025/02/14-19

Location
  • スペースO

Creator
  • KOGUCHI Rina / 河口 梨奈

  • FUJIMOTO Tetsuaki / 藤本 哲明

  • MURATSU Ran / 村津 蘭

KOGUCHI Rina / 河口 梨奈

〔プロフィール〕
1978 岡山生まれ
多摩美術大学美術学部芸術学科映像コース中退
美學校岡山校銀塩写真コース修了
美學校岡山校講師

〔展示〕
2019「K I」(Equivalent / 高知)
2020「OVER RAP AREA」i 美學校岡山校修了作品展(maimai / 岡山)
2021「一人姉妹」(Equivalent/ 高知)
2023「たまたま」(アートスポットシャトー2F / 東京)
2024「影の息」(Studio / 岡山)

〔その他〕
藤本哲明詩集「ディオニソスの居場所」表紙撮影

FUJIMOTO Tetsuaki / 藤本 哲明

〔プロフィール〕
1982年生まれ
2008年初夏、詩作を始める。以後、断続的に詩作や詩に関する批評を行う
「甘美なバナナ」、「kaderOd」、「過剰」同人。

〔賞歴〕
第7回 エルスール財団新人賞受賞

〔詩集〕
2017 「ディオニソスの居場所」(思潮社)
2023 「attoiumani_nizi」(思潮社)

〔共同詩集〕
2016 「過剰」(七月堂)

〔X(Twitter)〕
@UmibeinoF

〔Instagram〕
@hanawo_musubu

MURATSU Ran / 村津 蘭

〔プロフィール〕
1983年生まれ
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所属。
アフリカと宗教をテーマに文化人類学・映像人類学的地平から執筆・作品制作に関わる。

〔著書〕
「ギニア湾の悪魔―キリスト教系新宗教をめぐる情動と憑依の民族誌」(世界思想社)

〔編著〕
「拡張するイメージ : 人類学とアートの境界なき探究」(亜紀書房、藤田瑞穂、川瀬慈との共編)

〔共著〕
「世界ぐるぐる怪異紀行: どうして”わからないもの”はこわいの?(14歳の世渡り術)」(河出書房真社)など。

〔映像作品〕
民族誌映画「トホス 」など

〔展示〕
「触れたら、死ぬ」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA / 京都)
「モノ/人/物神」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA / 京都)

〔賞歴〕
第51回 澁澤賞(公益信託澁澤民族学振興基金)
第36回 日本アフリカ学会研究奨励賞(日本アフリカ学会)
第十九回(公財)国際宗教研究所賞((公財)国際宗教研究所)
第18回日本文化人類学会奨励賞(日本文化人類学会)
東京ドキュメンタリー映画祭短編部門奨励賞(東京ドキュメンタリー映画祭事務局)

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